大判例

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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)321号 判決

控訴人 中央電話土地建物企業組合

右代表者代表理事 山村謙一

控訴人 株式会社三中井

右代表者清算人 山村謙一

右控訴人両名訴訟代理人弁護士 谷口英志

被控訴人 京都信用金庫

右代表者代表理事 榊田喜三

右訴訟代理人弁護士 杉島勇

主文

原判決を取消す。

本件を京都地方裁判所に差戻す。

事実

控訴人等訴訟代理人は、「(一)原判決を取消す。(二)被控訴人は控訴人株式会社三中井に対し金九四五、六三五円及びこれに対する昭和三〇年三月一二日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。(三)被控訴人は控訴人中央電話土地建物企業組合に対し金一四二、一二八円及びこれに対する昭和三〇年三月一二日より完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。(四)控訴人株式会社三中井と被控訴人間において、被控訴人の北大路支店の当座預金元帳の同控訴会社の口座中

(1)  昭和二九年六月一〇日より昭和三〇年三月一一日までの取引期間中の貸方欄記載の預金のうち、現金預金四〇〇、八一一、〇〇一円の記載は真実の報告をなした正しい簿記であること、及び

(2)  左記の記載は真実でないこと、

(イ)昭和二九年一〇月二三日

最終差引残高 金一、四七四、四三三円

(ロ)同    年六月一九日

一行目残高    金一二九、〇〇〇円

(ハ)同    年同月三〇日

最終差引残高   金四九六、三〇一円

(ニ)同     年七月六日

最終差引残高   金四八一、三一四円

(ホ)同    年同月一〇日

三行目差引残高   金五一、三九八円

(ヘ)同     年九月三日

二行目差引残高金一、五九七、二〇七円

(ト)同   年一〇月一四日

最終残高     金四六九、三六二円

(チ)同    年同月二五日

八行目差引残高金二、二九一、五五四円

(リ)同    年同月二七日

七行目差引残高  金二三九、七四一円

(ヌ)昭和三〇年 一月一一日

最終残高     金七一一、六三〇円

(ル)同    年同月一七日

六行目差引残高金一、三〇三、八二一円

を確認する。(五)控訴人中央電話土地建物企業組合と被控訴人間において、被控訴人の北大路支店の当座預金元帳の同控訴組合の口座中

(1)  昭和三〇年二月九日より同年三月三一日までの取引期間中貸方欄記載の預金のうち、現金預金一九、七二一、三九二円(一九、七一一、〇〇一円は誤記と認める。)の記載は真実の報告をなした正しい簿記であること、及び

(2)  左記の記載は真実でないこと、

(イ)昭和三〇年二月一四日

最終差引残高金二、九〇九、〇〇〇円

(ロ)同    年同月八日

二行目   金二、八九七、一〇八円

(ハ)同    年同月九日

最終残高  金四、七二五、一〇八円

を確認する。(六)訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張は控訴人等訴訟代理人において、

一、事実関係の確認を求める訴も許さるべきである。

二、金員の給付請求は当初本件訴状を京都簡易裁判所に提出したときになしており、原審でその請求を拡張したにすぎない。

三、金員の給付請求は借受金の利息を過払したことに因る不当利得金の返還を請求するものである。

と述べた外、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一、職権をもつて審査するに、

本件記録によると本件が原審において審理判決せられた経過は次のとおりである。すなわち、本訴は当初昭和三六年二月二日被控訴人に対し、控訴会社より、被控訴人の北大路支店の当座預金元帳の控訴会社の口座のうち、貸方昭和二九年八月一四日六八〇、〇〇〇円の記載が真実の報告をなした正しい簿記であること並びに借方同日一〇口合計一、五四八、〇〇〇円及びそれぞれ、六口の差引残高、同月一三日差引残高一、四一〇、三五一円、積数一五〇万円、利息七七四、四五〇円の各記載が或は第三者のために支払われたものを控訴人等のために支払われたとし、或は正規の利息以外に重複利息をとる違法の記載であることを理由として、不実であることの確認を、控訴組合より前記元帳の控訴組合の口座のうち、貸方昭和三〇年二月一〇日四〇六万円の記載が真実の報告をなした正しい簿記であること、並びに借方同日六口合計三、二五一、〇〇〇円及び差引残高一、七七二、〇〇〇円積数四〇六万円の記載が前同様不実の記載であることの確認を求める訴として、京都簡易裁判所に提起され、同裁判所において口頭弁論を開いて審理したところ、控訴人等は昭和三六年三月一八日受付の準備書面(同年四月六日第二回口頭弁論期日において陳述)で、被控訴人が前記帳簿に架空の記載をなし、これに対する利息を貸付に振替えて控訴人等より徴収したことを原因として、被控訴人に対し、控訴会社は金五六九円七七銭及び昭和二九年九月一三日より完済に至るまでの利息の支払を控訴組合は金一、〇一五円及び昭和三〇年三月一四日より完済に至るまでの利息の支払を求める請求を追加して訴の追加的変更をした。京都簡易裁判所は昭和三六年六月一五日の第四回口頭弁論期日において民事訴訟法三一条の二により本訴を京都地方裁判所(原審裁判所)に移送する旨の決定をなし、移送を受けた同裁判所は同年七月二〇日本件を合議体で審理裁判する旨及び準備手続に付する旨の決定をなし、同裁判所においては口頭弁論を開くことなく、準備手続に付された。その後受命裁判官により一三回の準備手続期日が開かれ、その間控訴人等は昭和三七年一一月二八日受付の訴状訂正申立書(昭和三八年九月一二日の第一二回準備手続期日において陳述)をもつて、それぞれ控訴の趣旨(二)ないし(五)記載のとおり請求を拡張して、前記帳簿中真実の報告をなす有効な簿記部分につき真実に合致することの確認を、誤算があり、虚偽の記載のある部分は真実に合致しないことの確認を求め、さらに右不実の記載によつて、被控訴人は、昭和三〇年三月一一日までに、控訴会社に対し合計金九四五、六三五円を、控訴組合に対し合計金一四二、一二八円を不当に利得していることを原因としてその返還を求めた。そして昭和三八年一〇月二四日の第一三回準備手続期日において準備手続は終結せられ、原審裁判所はその後口頭弁論を開くことなく、裁判長は判決言渡期日を昭和三九年二月一九日午前一〇時と指定し、裁判長裁判官小西勝、裁判官乾達彦、裁判官堀口武彦(準備手続の受命裁判官)により本訴を却下する旨の裁判がなされ、右期日に判決の言渡がなされた。

しかして原判決の本訴を却下する理由は、本訴のうち確認の請求は書面の成立が真正であるか否かの確定を求めるものではなく、書面の記載内容が客観的事実に合致するか否かの確定を求めるものであるから、仮に商業帳簿が法律関係を証する書面であるとしても、民事訴訟法二二五条にいう法律関係を証する書面の真否を確定する訴に当らず、事実関係の確認を求める訴であつて、確認の利益を欠き不適法であり、また金員の支払を求める請求は、右確認の訴を前提とする訴の追加的変更であるから、右確認の訴の不適法が補正されないかぎり許されず、その後の請求の拡張も不適法の点が補正されないから許されない。したがつて、本件訴は確認の利益を欠く不適法な訴で、その欠缺を補正することができないものであるから、これを却下し、右訴の変更は結局いずれも不当であると認めてこれを許さない、というにある。

しかしながら、民事訴訟法二〇二条は、不適法な訴でその欠缺が補正することができない場合に、例外的に口頭弁論を開かないで訴を却下しうることを認めたのであつて、一旦口頭弁論が開かれた以上、通常の訴訟手続によつて同法一八七条一項に従い、基本たる口頭弁論に関与した裁判官がその口頭弁論の結果に基づき口頭弁論終結時の状態において訴の適否につき裁判をなすことを要するものと解するのが相当である。本件においては前示のとおり移送前の裁判所において既に口頭弁論が開かれており、同法三一条の二の裁量移送の場合には移送前の裁判所においてなされた訴訟手続は移送後も当然その効力を保有するものと解すべきであるから、口頭弁論を続行し、その口頭弁論に関与した裁判官が口頭弁論の結果に基づき本訴の裁判をなすべきであるのに、原審裁判所が口頭弁論を続行することなく、準備手続を施行したのみで、直ちに同法二〇二条により本訴を却下したのは訴訟手続を誤つたものというべく、原判決は取消を免れない。

二、次に原判決は前示のとおり本訴の確認の訴は確認の利益を欠く不適法な訴であつてその不適法が補正せられないかぎり、右訴を前提とする金員請求の訴の追加的変更は許されない旨判示しているが、確認の訴が確認の利益を欠き不適法である場合においても、その訴の係属後は口頭弁論の終結に至るまで、請求の基礎に変更なくその他の法定の要件を具備するかぎり訴の変更は許されるものと解するのが相当である。けだし訴の変更は訴訟経済の見地から、相手方の利益を害しないかぎり、従来の訴訟手続における訴訟状態を利用せしめるため認められたものであるから、旧訴が確認の利益を欠く不適法な訴であつても、その訴が係属している以上、口頭弁論終結に至るまで法定の要件を具備した訴の変更は許されるものと解するのが法の目的に合致するからである。そして本訴において第一次の訴の追加的変更の申立は移送前の裁判所の第二回口頭弁論期日までになされており、その効力は移送後も当然その効力を保有するものと解すべきこと前記のとおりであるから、原判決が旧訴が不適法でその欠缺が補正せられないことを理由として、直ちに右訴の変更が許されないものとしたのは失当であり、この点もまた取消を免れない。

三、よつて原判決を取消し、民事訴訟法三八八条により本訴を原裁判所に差戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野田常太郎 裁判官 柴山利彦 宮本聖司)

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